MINOTAUR INST. × 二俣公一 「東京はパワフルにシフトチェンジしていく街」

 二俣公一
空間・プロダクトデザイナー 福岡と東京を拠点に空間設計を軸とする『ケース・リアル』(CASE-REAL)とプロダクトデザインに特化する『二俣スタジオ』(KOICHI FUTATSUMATA STUDIO)両主宰。1998年より自身の活動を始め、国内外でインテリア・建築から家具・プロダクトに至るまで多岐に渡るデザインを手がける。

渋谷RAYARD MIYASHITA PARKへの移転に伴いMINOTAUR INST. TOKYO新店舗の設計監修を手掛けた二俣公一。日頃からMINOTAUR INST.のアイテムを愛用する二俣は、この日も自前のTECH KNIT BIG POLOを着用して取材に応じた。そんな二俣に物事の考え方や福岡を拠点としている理由などを聞いた。

『MINOTAUR INST. x 二俣公一 第1弾インタビュー「洋服にしても何でもバックボーンを知りたい」>>』

「地方基準に考えた方がニュートラルにとらえられる」

──二俣さんは普段は福岡で生活しながら、東京にも事務所を構えていますよね?

福岡に拠点を作ったのがもう20年前で、東京は12、3年前に拠点を作りました。もともとあまり場所性は気にしていなくて、プロジェクトも気が付けば全国各地や海外でいろいろやっている感じですね。東京に拠点を移すという話もこれまでに出たことはありますけど結局はそうしなかった。

──それはなぜでしょう?

僕自身は九州で暮らしている方が良いなというのと、地方から出てくると『地方からの見方』、『東京からの見方』、『海外からの見方』といろいろなところでの目線を持っていられるし、やっぱり地方軸で物事を知る方が僕にはメリットがある感覚があって。東京中心にモノを考えるより、地方中心にモノを考えて『東京はこうだ』という客観的な見方をしたいなと。

というのが、47都道府県のうちの46は地方ですよね。経済の拠点としては東京だし、カルチャーや文化の発信でも東京は外せないけど、人の営みや暮らしという意味では地方をよりベースで考えたいというか。ショップやギャラリーなどのインテリアだけでなく、住宅や別荘などの建築もさせてもらっているせいか、ベースとして人の動きや暮らし方に興味があります。そうするとやっぱり地方基準に考えた方が、いろいろなものをニュートラルにとらえることができる感覚があるのかなと思っています。

──様々な土地で仕事をしているからこそ、地方基準に考えることでその土地のカルチャーを受け入れやすいということでしょうか?

そうですね。生まれは鹿児島ですが、鹿児島と福岡と東京それぞれの土地に対する感覚が自分の中にあって、それがちょうど良いんですよね。鹿児島の感覚、都市でもあり田舎でもある中間的な福岡、首都の東京の3軸をフラットにずっと見ているというか。だからあまり偏った考えも持っていないんじゃないかと思います。

──3軸で見ていても東京だけはオリンピックがあったりと、都市的にはとても盛り上がっています。今はコロナの影響を受けてはいますが、そこはどうお考えですか?

オリンピックのような花火を打ち上げるタイミングで物事は更新されて行くと思うんです。例えば1964年の東京オリンピックの時に最先端だった建築やデザインは、今となっては当たり前のことになっています。でも、あのタイミングで更新されていなかったら今もない、と考えると今回の花火でも更新されるべきことはたくさんあるのかなと。コロナ問題は大きな打撃ではあると思いますが、良い意味で東京はパワフルにシフトチェンジしていく街だと思います。

逆に言うと地方はそういう感じでもなくて、花火を上げずにずっと平坦にゆっくり成長していく感覚ですね。だからこそ、どちらにもそれぞれの良さがあると思います。僕は性格的に地方型なので、ガッと行くのが苦手でゆっくりと自分のペースでやっていく方が自分にはあっている気がして。どれも違いがあるから面白いし、美味しいどころ取りをしたいから、地方と東京の2拠点みたいなことをずっとやっています(笑)。

──『美味しいどころ取り』うらやましいです(笑)。それでも自分の感覚と合っている街を見つけられる人は、なかなかいないですよね?

そうですね。でも、僕も意識して探そうと思ったわけではないんです。僕は鹿児島で育って、大学の時に親に東京へは出してもらえなかったので、「九州内なら良いでしょ」と説得して福岡に出ました。つまりそこから始まっているわけですが、福岡ってやっぱりちょうど良くて。いろいろな規模感や食べ物、都市感もほどよくありながら地方もあったりするバランスの良さに惹かれて結局、今も居残ったという感じです。

「シンプルかつ心地が良い場所にしていくことを目指しています」

──二俣さんが手掛けたお家やショップを見ると無機質でありながら自然を感じて異なる作品でも統一感があると思いました。そこも自然と行きついたのですか?

自然だと思いますね。もちろん、20年の中で少しずつは変わって来たかもしれないけど、大きな軸はあまり変わっていないかなと。例えば機能を最小限にしていって、その最小限の要素で美しいものを作るというのはすごく日本的な考えでもあるし、ミニマルで美しいとは思います。

ただ、僕はもうちょっとリアルなものが好きで、基本は人が使うものを作っているじゃないですか。人っていろいろな感情や生活、リアルな家族のことがあったりして、結構複雑で面倒くさい生き物だと思っているんです。そういったいろいろな要素があって、そこに必要なものは実直に機能として積み上げて行く時に、その集積の結果が美しくあってほしいということと、一番重要だと思っていることは、それを使う人やそこへ訪れる人が気持ち良いかどうか。

例えばこのショップに泉さんがいて似合うか、違和感がないか。依頼をいただいた方の住宅を作る時に、その人にとってそこがしっくりくるのか、とか。施主だったり目的を持っている人と一緒に作っていく時に、その人と若干同化した感じで物事を見て、気持ち悪くないか、気持ち良いかを気にしていますね。

最終的な素材の選び方、グラデーションの作り方や空間の開き方閉じ方、機能などすべて組み合わせてできるだけ完全な状態に持って行きつつ、違和感がないかということを最終的な仕上げとして気にしています。先ほど「シンプルだけど自然を感じた」と言われましたが、最終的なフィニッシュで心地良さを意識しているからだと思います。その時に素材感や温かさといった自然な要素が混在してくるわけであって。ただただシンプルにするというよりは、必要なものを要素として持ち込んだ上で、シンプルかつ心地が良い場所にしていくことを目指しています。

──そうやって空間作りが始まって行くのですね。確かにこのショップも泉さんがいて何の違和感もないですし、MINOTAUR INST.らしさが漂っています。

その人の気持ちを一回入れた上で自分たちの感覚で吐き出して、それを細かく細かく微調整しながらお互いの気持ちが合致するように作っていく。そこのすり合わせがすごく密で大変です。

──それでは最後の質問です。今後、挑戦したいことなどはありますか?

うーん……。あんまりないかなあ。僕はマイペースでいろいろな人と出会ってお仕事の依頼をいただいたり、もちろん自分から仕事を取りに行くこともありますけど、やりたいと思った仕事を等身大できちっと作りたいので。それをやって来たから今も少しずつ広がって来ているし、今後も広がると信じています。

基本的に建築家やデザイナーという僕らの仕事は裏方の仕事なので、来た仕事をきちっとやって、依頼をいただいたら倍以上の良いものを返したい、そういう気持ちですね。